無貌

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「見られていない、というだけでは足りない。どこかから本当の自分が漏れやしないか。寝るときでさえ、不安があった」 「正確には、本当の自分を知られることで、仮面が壊れることを恐れていたね」  女性が再び座り、白黒の石をパチリと打った。 「そりゃあそうだよなあ。それが壊れちゃあ明日からどうしていいか分からない。長い間かけて作ってきた地位も信頼も失うんだ。まさに水の泡。残るのは紅茶の出がらしくらいか」  男はわざとらしく首を傾げ、手の中で石を弄ぶ。 「そうやって怯えて、逃げて、仮面をかぶり続けているうちに、彼は本当の自分というものが分からなくなった」  女性は哀しそうに真っ白な空を仰いだ。 「それで、その人は結局どうなったんですか? 本当の自分が誰であるかも分からなくなってから、彼は乗り越えることはできたんですか?」  それを聞き、男は再び笑いを爆発させ、女性は俯き、右手で頭を押さえた。 「はっは、本当に傑作だよ。あいつのことを最もよく知っていたのはお前だろうに、すっかり忘れちまうんだからな」 「それは、どういう」 「つまり、それはだね……」     
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