無貌

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無貌

 僕は丸テーブルについていた。唐草模様のような優雅な曲線を基調にしたロココ様式のテーブルで、白の地に薄い金色の装飾がされていた。テーブルのまわりには、やはり同様のロココ様式の椅子が四脚――その一つは僕が座っているものだ――並んでいる。両隣には人が座り、正面の席は空いていた。  左の席には、からかうように口元を歪めた男が、大きく足を投げ出し、ややずり落ちる形で背中を預けていた。尊大な暴君のようでも、だらしのない子供のようでもあった。足元にはトランプやチェスなどのテーブルゲーム用品が無秩序に散らばっていた。左手でデザート用フォークを弄び、ときおりクッキーやケーキを口へ放り込んでいる。  右の席には、穏やかな微笑を浮かべる女性が、足を組みやや前のめりの体勢でいた。足を組んだ様子は、不作法というよりどこか上品で、いっそ優雅さすら感じられた。ずっと読書をしていたらしく、足元の籐でできたバスケットには読み終えたと思しき本が平積みとなって溢れていた。噛みしめるようにゆっくりとページをめくり、ときどき疲れたのか眼鏡を外し右手でティーカップを口元に持っていく。
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