CH1 Raindrops

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 時々、ローズが人間同等の権利を与えられていないことを僕は忘れてしまう。僕達にとって当たり前のことが彼女たちには許されていない、そのことでローズが傷つけていないか気にすることも何度かあった。僕はチャンネルのローズがちゃんと聞きとれるよう切り替えを少し遅くする。 今日は映画スターの不倫騒動で持ちきりのようで、とっくに鮮度を失った政治問題などは別段新しい進展は見受けられない。派手な事故や事件は特に起こらなかったようだ。そんな中、ある局が放送していた特集に目が止まる。映像はちょうどデモ隊が横断幕を掲げて行進しているところで、テロップには『あふれる失業者――職は誰のものか』と書かれていた。 『現在、私達の暮らしを支える労働力は3つあります。人間、そして代替労働力のロボットとトランスジェニックです。20年前の規制解除以降ロボットとトランスジェニックは、安い人件費を売りに次々に新たな事業に進出していきました。経済状態が不安定となった現在、コスト削減として正規社員を解雇した代わりにロボットあるいはトランスジェニックを雇う企業が増えています。その結果、人間が大量に失業するという事態を招いたのです……』  デモ隊の規模は大通りを埋め尽くせるほど大きく、彼らの表情は不安と怒りが入り混じっている。淡々と喋る女性ナレーターの声がより一層事態を深刻そうに印象付ける。ふと隣を見やるとローズの顔からあの優しい笑みが消えていた。洗濯物をたたむ手を止めて真剣に画面を見つめている。     
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