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「……フィルでいいよ」
それが、彼女と交わした最初の言葉だった。穏やか、とは言い切れないけれど、こうして僕達の共同生活が始まった。
最初の数日間は、朝起きると出来たての料理がテーブルに並べられ、ローズと一緒に食事をとることへ少なからず抵抗を感じていた。それは一人で食卓に座ることへ慣れ切ったせいでもあるし、母さん以外の誰かが調理台の前に立つことへの拒絶でもある。それでも彼女が僕に話しかけてくるたびに警戒心が解かれていって、学校のことや明日の献立のこと、家族との思い出などを少しずつ話せるようになった。
それから2週間が経ち、太陽の角度が若干高く感じられるようになってきた頃のこと。学校の午後の授業も終わって帰る支度をしていると隣の席に座る女の子、ルイーズが言った。
「ねえねえ、あんたん家ってアヌビス雇ったんだって?」
彼女は自慢の黒髪で編んだドレッドヘアーにアクセサリーをたくさん付けたりする派手好きな子で、毎日学校中の噂話を集めては広めている。近所の誰かが目撃したんだろう、僕の噂もいつの間にか本人の耳に入るまでに知れ渡っていた。
「そうだけど、何?」
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