アオイカタマリ

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 いや、それだけじゃない。成長期のオレに対し、何年経っても容姿の変化しないユキ。その絶対的な現実のほうにこそ、オレをより苦しめ臆病にさせた要因があったのかもしれない。このままユキの設定年齢を追い越し、結婚して家を出、孫を連れて実家に戻っても、ユキはいまの姿のままなのだ。例えばオレが老衰で死ぬときでさえ、ユキは美しいまま。  違う、問題はそこじゃない。オレが抱えているのはもっと即物的な問題。いつからかユキの顔を直視できなくなったオレがいるという問題。救いようのないバカがいるという問題。  これまで支えてくれたユキに迷惑はかけられない。これ以上親父を悲しませるようなマネもできない。だから口を閉ざした。閉ざして、閉ざして、その結果がこれだ。もう悩む心配もなくなったというわけ。万々歳だ。 「和希くん」  ぼんやり歩いていると、校門前で呼び止められた。成瀬よりももっと深いオレンジを背負い込んで、まるで発光しているみたいなユキがいる。 「なに来ちゃってんの」  文句しか言えないオレに、それでもユキは優しく笑いかけてくる。パーマがかった柔らかなカフェオレみたいな髪の下に、アンドロイド特有のやたら整った顔がついている。緩やかにカーブする眉、少し大きすぎる葵色の瞳、薄めの唇。幼い頃、このひとはなぜこんなにも綺麗なのかと本気で悩んだことがある。アンドロイドは美を追求して造られるものである、と習ったときにはどれほど胸がスッとしたことだろう。けれども中学に入り、ほかの家庭のアンドロイドにはそれほど美しさを感じない自分に気づいてしまった。なぜかユキだけが違う。再び胸は重石を抱え、答えが出た夜は一睡もできなかった。
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