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あれだけ世話になっておいて薄情だと、親父を責めるのは簡単だ。だが、いまの親父の幸せは紛れもなく紗江さんにある。崩壊しそうな家族を救ってくれたのはユキでも、親父の心の隙間を埋めてくれたのは紗江さん以外にはない。彼女を尊重してハナを迎えることになるのはもはや必然だった。だからやっぱり口を閉ざす。閉ざして、閉ざして、このうねりをなかったことにする。
「和希くん。食欲ない?」
皿の上の海老フライを箸でつついていると、いつの間にか背後にきていたユキに声を掛けられた。ホクホクして食べまくっていたはずの親父も、心配そうに向かいから覗き込んでいる。
「んん、別に」
慌てて海老フライを口に頬張り、なんでもないと笑ってみせた。それでもユキの目はごまかせない。硬い表情のまま、オレをじっと見つめてくる。見透かされそうで視線を逸らした、その瞬間。
「うぅ……」
「え?」
「気持ち、わるっ……!」
喉の奥から得体の知れない怪物のようなものがせりあがってきて、慌ててトイレに駆け込んだ。いま噛み砕いたばかりの海老フライが、下から参加した胃液とともに押し出されていく。
「僕が」
ダイニングから、足音の軽やかなほうが駆けつけてくる。反射的に、オレは開け放したままだったトイレのドアを閉めた。
「和希く」
「来んな……!」
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