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「このままじゃ取り返しのつかないことになるって、成瀬先生が」
……成瀬かよ。ユキにチクってたって、それってもうオレの気持ちは成瀬にもユキにもバレバレだったってこと?
「お父さんにお願いしてきたよ。和希くんを家から追い出してくれって」
「……え?」
「僕がついていく」
「え、な、……は?」
理解できなくて混乱する。思わず開いた視界に、回されたユキの腕が飛び込んできた。親父が餞別に選んだ地味でセンスのアレなトレーナーを着ているのがわかる。顔を上げられないでいると、ユキの小さな笑いが耳元で漏れた。くすぐったい。
「それ以外ないんだもん。和希くんと僕がこれからも一緒にいられる方法」
「ユキ、ちょ、意味が」
「わかるよね? 僕がいないと生きていけないでしょ?」
咄嗟に言い訳が浮かばないオレの頬に、涙を掬うように唇が触れる。
「な、なにす」
「命令は絶対だよ。でも人間を守ることがそれより大前提にある。命を守るためなら命令自体を反故にだってできるんだ。知ってた?」
「……ユキ」
「また失うところだった」
細く落ちる声は震えて聴こえた。
「ユキごめん。でもオレ、そんなつも」
「和希の強情っぱり!」
唐突に両腕の拘束が外れて、正面に回り込まれた。ダサすぎるトレーナーを着た綺麗すぎるユキ。手を取られて、茫然とそれを見遣る。
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