ははは、見ろ。今日も世界は広いぞ!

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 後ろ向きに時速400キロメートルで飛ぶ感覚は、あまり気持ちのいいものではない。  気圧差で若干の目眩と耳鳴りにさいなまれていると、操縦席から通信が入る。 「ほら、ガーデルマン。空が君を歓迎しているよ。見てごらん」  雲の高さまで上がっていたようだ。  そこには海が広がっていた。  真っ白い雲の大海を、8機の戦闘機が泳ぐように飛んでいる。内地育ちのガーデルマンは、海は絵でしか見たことがない。それでもこの大空の海は、きっと本物の海よりも美しい。  感動に胸を埋め尽くされていると、無線機が鳴った。できれば鳴って欲しなかったが、鳴ってしまった。 『少佐、見えました、敵空母です』 「ああ、私にも見えたよ」  空母? こんな陸地の空にどうしてそんな物があるのだろうか。  不思議に思って首をひねり、前進方向へ視線を向けた。 「見えるかい? あれは、空の空母。巨大飛行船に戦闘機をぶら下げているのさ」  ルーデルの説明を聞いて、目を凝らす。飛行機の操縦士のような超人的な視力をガーデルマンは持っていないが、それでも見えた。遠近感を狂わせるほど、巨大なそれ。  とんでもないモノが浮いていた。とてもそんなものが空にあるなんて信じられない。  全長だけでいったい何メートルあるのだろうか。想像もつかない。  帝国がかつて建造した空中戦艦【ヒンデンブルク】の倍はあるだろう。島が浮いている。そうとしか思えない、巨大すぎる物体。 『向こうさんもこっちに気づいたみたいですよ!』 「では諸君、我が相棒ロートマンの義務の満了と、新しい相棒ガーデルマンの着任の祝砲だ。全部、叩き壊すぞ!」 『了解! 我らが魔王ッ!!』  三角陣を崩して、それぞれが巨大空中空母に向けて飛んでいった。  敵も応戦を開始する。バラバラとパイ生地に片栗粉を巻くように、無数の戦闘機が発艦していく。その数ゆうに20機はあるだろう。  絶望的な戦力差を前に、しかしガーデルマンは予想していたよりもはるかに穏やかでいた。  ただ単純に後ろ向きにかかる加速度に、口から中身を引きずり出されるような感覚のせいで、敵に怯える暇すらなかっただけかもしれないが。  飛行士としての訓練なんて、当然受けていない。体を引きちぎりつぶそうとする加重を、奥歯を噛み締めて必死にこらえる。 「戦闘機動に入るぞ。全身を固めるんだ」
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