ははは、見ろ。今日も世界は広いぞ!

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 発光塗料の塗られた弾丸が、列になって敵機に殺到した。  弾丸は計三発が着弾。敵機の主翼と歩脚を削った。  煙を噴いて失速し高度を落としていく敵機。 「素晴らしい! ガーデルマン! 君は優秀なガンナーだな!」  笑う魔王。そのまま彼女は鋭く、優雅に、バレルロールから、急降下。完全無欠のスプリットS。軽快快速の戦闘機ですらそこまで半径を小さく回れる者はいないだろう。いったいどんな魔力が働いているのか。  一瞬で貧血状態になるガーデルマンの事なぞ気にもとめず、ルーデルは右腕の汎用ガンポッドに収められた37ミリ対戦車砲を発射。放たれた砲弾に吸い込まれるように残りの敵機の軌跡と重なり、直撃した敵機は爆発四散する。  しかし発砲による反動で機体は水平錐揉み状態となり、コマのようにくるくる回りながら失速していく。  回転する事で三半規管が、酔いつぶれ猛烈な吐き気が込み上げてくる。我慢の限界が到達する直前。左腕の37ミリを発砲。反動で機体の水平錐揉み止まる。先程飲んだ牛乳が下の根元までせり上がってくる。  必死で飲み込もうとした瞬間。機体は突然の上昇を開始する。感性に従った胃の中身は投棄せずに済むが、脳内から血液がまたもや足りなくなる。  どう考えてもJu87の機動性能を上回った動きに敵は翻弄され、追従する事ができない。 「撃つんだ!」  ルーデルの声に、考える前に引き金を引いていた。  乱射された弾丸は、いくつかが自機の頭上を飛び越えていく敵機にがつんがつんと音を立てて着弾した。 「ガーデルマン! 君は最高だ!」  笑う彼女の声は聞き取れない。急激な上下運動についてこれず、耳鳴りが酷い。  意識が朦朧となりながら、動くものを無意識に追いかけていた。  弾頭の重量と加速度、引力による落下と空気抵抗による減速。敵機と自機と距離、相対する速度。  頭の中で算盤が弾かれていく。  目の前の動き回る人の形をした戦闘機。小ぶりで肩口に羽のついた、敵国の機体。  物理的原則に支配されている以上。機動を大きく変えることは、ほぼあり得ない。  ならば等加速度的観点から、未来にいるべき位置はおおよそ予測出来る。  意識が朦朧としていたため、ガーデルマンは冷静に算術を終え、引き金を絞る。
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