ははは、見ろ。今日も世界は広いぞ!

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 とは言え、一歩間違えればただの自爆突撃となってしまう、高速直角降下は誰でも真似ができるものではない。  それに防備が脆弱と言っても、敵空母の上面甲板には5つの高射砲が備えられている。その火線の中へ身を投じた機体。この瞬間に敵の凶弾にかすりでもすれば、くず鉄と化した機体とともに心中は確実である。  そんな恐怖なぞ微塵もなく、魔王は嗤いながら敵へ最大級に最悪な贈り物を届けるために、外科手術を行う医師よりも繊細に機体を操縦し直上よりもう接近する。  砲弾が暴風を、魔王はあたかも未来が見えているかのように全てよけきり、主翼を突然展開。それと全く同時にぶら下げていた爆弾の内3発を投下。さらに腕に持った37ミリ対戦車砲を乱射し、その反動でノーズダイブしていた機体が立ち所に水平位置へ戻す。アフターバーナーを吐き出しながら離脱した。  ガーデルマンの意識は、変化し続ける急激な加速度の変化に、地獄の底へ叩きつけられるように落ちていく。全身を揺さぶる爆音に強制的に再起動をかけられた。  本来なら粉砕力を重視しているため、貫通しないはずの50キロ爆弾が敵空母の上面軽金属装甲を突き破った。  艦内部で爆裂し、内側から吹き飛ぶ空母の上面装甲。  敵母艦の艦載機が機銃を乱射しながら突っ込んで来るが、魔王はまたしても避けて、37ミリ砲を当てて行く。  ――魔王……。人類史最強の空の魔王――  誰もが彼女の事を魔王と呼ぶ。  撃墜王でも、撃破王でもなく。  その意味が今分かった。  彼女は魔王だ。  ただ一方的に、徹底的な破壊を行い、好き勝手に空の戦場をズタズタに破滅する。  そこには空戦の臨場感や、細い綱割りをするような限界感はない。  破壊者なのだ。人をあざ笑い、ただただ叩き壊す魔王。  もう一度上昇し、炎上する巨大空母へ向け残りの爆弾、砲弾を降らせていく。一度目の爆発で頭上防備はほぼすべて機能を喪失していた船は、なすすべなく魔王の拳を受け続けた。  そして巨大だった空中空母が真っ二つにへしゃげ、炎を上げながら沈んでいく。炎に照らされた彼女の顔が、昔読んだ絵本の魔王と重なる。 「さて、親鳥を失った、哀れなひな鳥だ。丁重に駆除してやろう」
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