ははは、見ろ。今日も世界は広いぞ!

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 顔から火が出そうだ。たしかに彼女以外、この後部席を覗き込める人間は他にはいない。下では人気があるなら、人気がないここで着替えるのが一番マシである。 「わ、わかりましたから、ちょっと、あっち向いててもらえませんか?」  マティルデはあいよーと言って梯子を降りていく。 「終わったら降りてきてねー」  ちらっと下を見ると、マティルデはすでに地面に降りて、近くにいた整備士を小突いていた。 「だーかーらー! ルーデルさんの機は弾と燃料を優先だって! あの人フレーム曲がってても飛べるんだから! って、後部席はまだいい! 新兵が儀式中!」  もしかしたら、マティルデはそれなりに階級の高い整備士なのだろうか。大の男が平謝りして離れて行くと。ほかも怒鳴られて駆け回っていた。 「って、儀式って……」  恥ずかしすぎて泣きたくなった。  それでもいつまでもここにいたら迷惑だ。肩を落として袋を開けた。中には少し小さめ、ガーデルマンには少し大きめの作業用ツナギが入っていた。当たり前だが下着の類はない。  それを取り出して後部席の縁にかける。  意を決してベルトをはずし、ツナギの前を開けた。残念ながらスリップまで被害は拡大している。これは全て脱ぐしかないようだ。 「だ、誰も見てませんように!」  湿って重たくなった飛行服を下着ごと一気に脱ぎ去り、生まれたままの姿を外気に晒した。今まで得たことのない妙な開放感に、胸の奥で謎の爽快感を感じたがそんな事を気にしている暇はない。一刻も早く新しい服に袖を通したい。  慣れない服をなんとか無理な姿勢で脱ぐが、ブーツが邪魔で膝から先が脱げない。  あわててブーツ紐を解こうとするが、何度も絡まる。やっと脱ぎ去るとあらためて躯体を無防備に晒す。この瞬間を誰かに見られでもすれば、羞恥心で死するまで部屋から出れなくなる。  それから自己最高記録の早さで服を着替えて、後部席から立ち上がった。下着を着けていないため、妙な裸体感がどうにも落ち着かない。
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