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何事だと。そもそも服を着たままではシャワーは浴びれないから当たり前だが、それにしても思い切りが良すぎる。
黄金律の取れた肢体は、軍人らしくよく鍛え抜かれて引き締まっている。その一方で飛行服に包まれていて気づかなかったが、女性らしい豊かな丸みもしっかりとある。
赤金色の髪を後頭部でまとまると、傷痕だらけの背中が見えた。
彼女は人類史最高の撃破数を保持する反面、同様に被撃墜数もある。戦闘高度からの墜落は、当然無傷で済むはずがない。負傷の数も当然だ。
「どうした?」
振り向いた彼女にどきりとした。堂々とした彼女を目の当たりにして、なぜか自分がまだ服を着ている事に恥ずかしくなる。
意を決して、本日二度目の裸体を晒した。
着ていたつなぎは丸めて胸に抱き寄せ、早足に彼女の隣の個室へと入る。
一応覆いがある事で、無防備感はなくなるが、それでも心許ない。今この瞬間に男性隊員が戻ってきた時には、自分はいったいどうなってしまうのだろう。
つなぎをドアに引っ掛ける。ちらりと横目で隣を確認すると、彼女が気持ちよさそうに頭からシャワーからお湯を浴びていた。
もはやどうにもならない。それにシャワーを浴びたいとあれほど思っていたではないか。
調節ダイヤルを回してお湯を出すと、頭から浴びた。
着任して以来、いや首都の軍学校を出発して以来のシャワーの心地よさに体の底からほっと息を吐いた。
開戦してから数年、めまぐるしい日々が続いていた。3日間寝ずの勤務にはもう慣れた。それでもこの基地に来てからは、今まで以上に疲れた。
シャワーノズルが生えた奥の壁に手をついて項垂れる。奥底に溜まった疲労が一気に噴出していく。
洗い流される汚れと共に、体が溶けて無くなるような錯覚。急にぼやける視界。
「体、洗わないと……」
ぼうとした頭がそんな意識だけが残る。
のろのろ緩慢な動きで、調整ダイヤルの横のでっぱりに置かれた石鹸に手を伸ばす。
あと少し。
そこで意識は暗転した。
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