「シャワーを浴びて、牛乳飲んだら、さぁ! 出撃だ!」

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「一緒にやろう! ほら!」  ぴょんぴょん跳ねながら手旗信号のように長い両手を揃えて動かす姿は、さすがに非現実的過ぎて喜劇的ですらある。それを彼女はさわやかな微笑を浮かべながら真面目にやっている。  ほらほらと翡翠色の目で一緒にやるように訴えてくる。  今年で17になるのに、大真面目に体操選手よろしく準備運動を行う。体操養成学校以外ではまずやる事ない、若干の間抜けさを醸し出すその仕草はやはり誰かに見られたくはない。 「ほら、まじめにやるんだ!」  そういう彼女は跳ねるのをやめて手首足首をふるふる振るいながら首を回している。  どうやら手抜きは許されないらしい。  おのれの羞恥心を押し殺す事四半時間経ち、それは終わった。  ほっと息をつくと、体がわずかに汗ばんでいることに気付いた。それほど激しい様には思わなかったが、意外と効果はしっかりある様だ。 「よし、体も温まった事だ。行こう!」 そう言って部屋を出る彼女。咄嗟についていってしまう。  将校用の官舎を出ると、彼女はゆっくりと走り出す。どうやら持久走を行うようだ。  走るのは得意ではないが、もはや仕方がない事だ。後に続く。体が大きく上下しないように気をつけた。  走り始めてすぐに同じように真向かいから兵卒たちが集団で走ってくるのと出くわした。 「おはよう諸君! いい朝だな!」  そう軽快に挨拶した彼女に、彼らは慌てて返礼した。なにかよそよそしく、そしてチラチラとガーデルマンを見ている。  一体何が、と疑問がよぎった瞬間。即座に胸の前で腕を組む。  もう何も、誰も知らない所へ行くたくなった。 腕を 離すことはできない。あとはもう上級士官と遭遇しない事だけを願うばかりだ。 1時間ほど走った末、彼女の早朝持久走は終わった。 全身汗が滲み、肩で息をしていたガーデルマン。両手は完全に胸の前で固定している。 「今日も快調だな! いい事だ!」 気分爽快な彼女と反比例で、ガーデルマンの気持ちは海の底よりもなお深く沈み込んでいた。 「それでは少佐どの。私は職務に戻ります……」 敬礼して踵を返したガーデルマンはだが、その直後に彼女に腕を掴まれた。
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