「シャワーを浴びて、牛乳飲んだら、さぁ! 出撃だ!」

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「全機! われ敵を捕捉す! 1時方向、数は戦車が5両に、あれは兵員トラックか。2両。行くぞ、行くぞ!」  声色だけ聞けば、それは歓喜の少女。しかし、現実はもはや狂気ともいえる、東の空の魔王が獲物を捕らえただけの雄たけび。 「全機、戦笛を鳴らせ。鬨は開いた!」  Ju87の主翼端には小さな風切りがついている。普段は畳まれているが、操縦席のレバーで起き上がり風圧にさらされると、恐ろしくけたたましい笛の音となり戦場にとどろく。  特に彼女の機体のそれは、4つも付けられていてそれもそれぞれで角度が微妙に異なるため、堪え難い不協和音を奏でる。お陰で敵からは悪魔のラッパ、魔王の戦笛などと恐れられ、その音が聞こえると敵戦車兵たちは戦車から転げ出るとも言われていた。  そして今回も蒼穹に魔王の戦笛が鳴り響いた。  魔王の戦笛。目下では敵戦車部隊が大慌てで対空装備を起動かせて迎撃の用意を始める。だが、それでは遅い。彼女の機体はすでにスプリットSの要領で機体の進行方向を捻り曲げ、前方を大地へ向けていた。  機体正面が地面に対面すると同時に、ターボファンジェットエンジンの動力を生かし直角急降下を始めた。  急激な機動の変化に、後部席のガーデルマンは耐えきれずに貧血によって意識を手放した。  水平飛行と同等の速度での直角降下は、敵対空火砲の火線は照準が追いつかず、そして魔王は悠々と敵機甲兵器へ37ミリ対戦車機関砲の砲弾を叩き込んだ。  左腕に持った対空火砲を乱射していた敵戦車は、脳天から貫かれほぼ真っ二つ引き裂かれ爆散する。  彼女のストゥーカは事対戦車攻撃性能で言えば、現代世界においてダントツに高い。それは彼女があらゆる性能を犠牲に得ているためだ。空飛ぶガラクタ、飛ぶことを前提としない重装備、そう揶揄された機体は、しかし間違いなく魔王の愛馬であり魔槍や魔弾の部類の”絶対に敵を殺す”兵器であった。  まずは1両。そして急上昇のタイミングで爆弾を1つ投下。回避軌道を取る敵戦車の進行方向に落下し、真下より吹き飛ばし鉄の棺桶へと変貌させた。 「ふたぁあつ! 次だ!」  アフターバーナーを吐き出して急上昇する機体は、諸元表通りの数値を叩き出していた。  敵対空防備の守備範囲外まで登ると一旦水平飛行へ戻る。
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