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「…ずっと考えてた」
ブランコの揺れに合わせキィ、キィと寂しげな音が響く。
「俺がずっと美波の近くにいたら、邪魔になる。…例えば美波に好きな人が出来た時とか」
え、と私は小さく呟く。
「だから彼女を作って少しだけ距離を置こうと思った。でも、こんなに美波が遠くなるとは思ってなくて」
南風が吹いて透の髪を揺らす。私は黙って彼の言葉に耳を傾けていた。
「よく考えれば分かることだったのに。美波はいつも他人のことばっか考えてるんだから」
透の言わんとすることが分からず、私は凝視することしかできなかった。
「…美波と喋れなくなって、すごい後悔した。こんなことになるなら…」
透がブランコから飛び降り私の方へ向き直る。今まで見てきたなかで一番真剣な表情だった。
「…美波と付き合えばよかった。美波が好きだったんだって」
瞬間、今まで見たくなかった、認めたくなかった感情が胸に溢れだした。
――私は、透が好きなのだ。
「ずっと告白断ってきたのも好きって気持ちが分からなかったからだった。でも、美波が離れていった時に初めて気がついた」
主人をなくしたブランコが力なく揺れる。私は震える手をぎゅっと握りしめた。
「…どうしたらいいか分からなくなった。彼女にも悪いし、美波の邪魔にもなりたくなかったし」
「…邪魔になんて」
私は首を横に振った。意を決して、透の目をしっかり見つめる。
「私は…私も、透と会えなく喋れなくなって凄く苦しかった。だから、邪魔になんてならない」
――好きだから。たった今、自覚したばかりの気持ちを正直に打ち明ける。
涙が一筋、頬を伝った。
私は透の幼馴染だ。透が好きな訳でも、彼女になりたい訳でもない。ずっとそう言い聞かせてきた。
…そうすれば、いつまでも側に居られると思ったから。でも、違っていた。
私はぐちゃぐちゃになった頭と感情を必死で整理する。
「…私、また透と話したり、笑い合ったりしていいの?」
透は優しく笑って、うん、と頷いた。
「お弁当箱も返してくれる?」
「あっ…ごめん、明日返す」
慌てて手を合わせる透に、私は思わず吹き出してしまう。少し遅れて、透も笑い出した。
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