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人気のない西校舎の廊下で向き合った彼女はとても小さく、幼さを残す少女だった。どこか不安げに、目を伏せる。
柿本と名乗った彼女は、しかし私の思っていた人物とは少し異なっていた。
「私は星川先輩の彼女の、親友です」
私は眉をひそめる。ホッとした半面、訳が分からないと思ったからだ。
「…こんなこと言うの、おかしいって分かってます。でも、どうしても伝えたくて」
彼女の手が微かに震えている。私はそれをぼんやりと見つめた。
「彼女、ずっと先輩が好きで。やっと想いが叶って付き合えるってなって。でも、ずっと不安に思ってて…」
真山先輩は幼馴染で、ずっと星川先輩と一緒にいたって知ってます。真山先輩にとっては家族みたいなものかもしれないんですけど…。
彼女は肝心な主張を言わず、長々と話は続いていく。――いい加減、我慢の限界だった。
「…つまり、星川透に近づくなって言いたいの?」
私は彼女の言葉を遮り、はっきりとそう訊いた。その口調に驚いたのか、彼女がびくりと肩を揺らす。
「…言われなくても邪魔する気なんてないし」
私は低く呟く。
――何も知らないくせに。私はそう叫びそうになるのを、必死に堪えていた。
放課後話しかけなかったことも朝電話をしなかったことも。…胸が苦しくなったことも。何にも、知らないくせに――…。
「…私は、ただ…」
柿本は涙目になっていた。私はそれを見て更に苛立つが、なんとか深呼吸をして心を落ち着ける。
「このことは彼女には?」
「…私の独断です。だから、彼女は悪くないです」
「友達想いなのは良いことだけど、こういうのはどうかと思うよ」
つい、吐き捨てるようにそう言ってしまう。言った瞬間後悔したものの、もう取り消すことはできない。私は彼女をその場に残したまま、踵を返して一目散に駆け出した。
これでは少女漫画の悪役だ。そう思って笑おうとするのに、上手く表情を作ることができない。
いつのまにか目尻から流れる涙は、拭わなかった。
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