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序章 ~夏、マウンド、スコアボード
暑い。
空気が熱い。呼吸の吐息ですらも涼しく感じられるくらいに、熱を孕んだ空気だ。
グラウンドの真ん中、そして観客席以外ではいちばんん高いところ。そこの空気いつだって暑く、痺れる。
痺れる?
そうか、痺れてるんだ。主に左腕が。
え、左腕? ここで? うーん、困ったなぁ。
延長9回ウラ二死一塁。一点はリードしているけど、バッターは四番。先ほど五回にツーランホームランを打たれた。カウントはツーボールワンストライク。一球のストライクは釣り球がやや甘めに入ってファール。ほかボールはフレームに決まらず外と内の低めに一個ずつ。投げたボールは思い出せない。
水が欲しい。
体全体がなんとなく自分のものじゃないような、そんな感覚に襲われている。
疲れてるな、わたし。そりゃそうだ、さっき監督から90球投げたって言われたばかりだもの。
前の試合が101球だったから、計191球。プラス、いまの回の球数、幾許か。練習より投げてるなこりゃあ。
「タンマ」
プレートを外して左手を上げる。苦しまぎれにグラブを外し、ボールを両手でぐっぐっと拭う。
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