タイトル未定

序章 ～夏、マウンド、スコアボード

二時間くらい代わる代わる地面にたたきつけられてきたボールのひとつも、こころなしか張りに疲れを感じる。お前も疲れたんだな。
グラブをはめ直し、左手を上げる。プレー再開。
キャッチャーのかわいくない高井はサインを出す。まんなか低め。とりあえず思いっきりこいとミットをたたき、構える。相変わらずかわいくない。まるで「おまえの荒れ球をきっちりフレーミングしてやるから黙って投げて」と言わんばかりの堂々たる構え。
でもこいつも虚勢を張っているのはなんとなくわかっていた。この回に入ってからフレームが一度も決まっていない。こいつのかわいくないフレームには何度も助けられてはきたが、ここまで決まらないのは初めてかもしれない。つまりこの回はわたしの真価が試されているのか。県大会決勝で？ 運悪いなぁ。わたしのだめだめピッチングがついに白日のものにさらされるのか。ま、でもいいか。やるだけやろう。
おもいっきり右足をあげる。ランナーがスタートを切ったのが感覚でわかる。
構うものか。
おもいっきり右足を出し、太ももで体全体を引き寄せる。そこから正面に向き直る反動で、わたしの中指に引っかかっていたボールを、放つ。腕がしなり、痺れとともに心地よくボールの感触が消えていく。