琴は恋の糸を絡ませて

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箏は十三本の弦で構成されていて、自分から見て一番奥から、一の糸、二の糸、そうやって手前に来るほど三、四、五、六、と並び、十一番目以降は斗、為、巾、という。 体験教室で初めて見た時は「為」が読めず、「ため、ですか」と聞いて「い、て読むんやで」と、微笑ましく笑われたのを、今でもよく覚えている。 「お箏は集中してへんかったら、すぐ演奏に出んねん。特に花ふさみたいなアンニュイな曲は、余裕がないと一番あかん」 黒髪をきっちりまとめている彼女の言葉は、少し釣り目なのもあるだろうが、凛として、すっと俺の心に入り込んでくる。 「自分の中では、曲に集中してるつもりなんすけど……。調子悪いんすかね」 「嘘や。何か、考え事してんのやろ」 俺が何ともないように返すと、さすが先生だけあって、すぐに見抜かれた。 「いや、それは……仕事とかは色々考えますけど」 「ここにまで、そんなん持ってこんでええやろ」  もう一回、という先生の声に合わせて、俺は爪をはめ直す。今度こそは余裕を持って、何も考えないように、と念じながら、出だしの五の糸を弾いた。
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