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閉店後のカフェ・バードランドでは、片付けをする息子をニヤニヤと眺める明子に瑠偉が大きくため息をついていた。
「母さん、やめてよその顔」
「まあねえ、十年も片思いしてたんだからねえ」
「そんなんじゃないって何回言えばわかるんだよ」
「でも、何だっけ? 喜美ちゃんにはクッキー試食してもらったんだって? お客さん皆に試食してもらってるって、いつそんな話になったんだっけ?」
「だってさ、あんなに疲れて悲しそうな顔してるんだもん。甘いものくらい」
「はいはいはい、あんたの顔を立ててクッキーもメニューに入れましょうかねえ。さて、彼女、次はいつ来てくれるかしらね?」
「――――近いうちに来てくれるよ、きっと」
本に挟まった革のしおりを返しに。
わざとそれを挟んだまま本を返した瑠偉は、磨いていたグラスをそっと棚に戻した。
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