2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ずいぶん安いですよねえ。下調べしたんですけど、普通このくらいだったら六万とか七万くらいするんじゃないですか?」
「ははは……よく調べてらっしゃいますね。まあ、その……ちょっと訳ありというかなんと言うか……」
「自殺者がいたとか?」
「いいえ!」
「じゃあ、殺人事件があったとか?」
「とんでもない」
「近くに墓地があるとか、廃病院があるとか、実は処刑場の跡地とか?」
「どれもありませんよ。まあ、その、どれでもないんですが……」
「ですが?」
「まあ、その、実害はまずありえませんから。大丈夫ですよ。大丈夫……多分」
ん?今小声で最後になんか言わなかった?
まあ、実害は無いっていうし、部屋は最高だし、外の眺めも悪くないし……
変な問題さえ気にしなきゃオールオッケーだよね。
「ここに決めました」
あたしが言うと、細目の不動産屋さんは、表情を明るくして喜んだ。
「あ、でも、契約のときは両親と一緒に後日来ますけど……部屋、取られたりしません?」
「大丈夫ですよ。契約の日まで私が意地でも守り通しますから。ですから、急に気が変わったとか言わないでくださいね?」
冗談めかして言う不動産屋さんの目尻に涙が見えたのは気のせいだったのかな?
ま、いっか。
最初のコメントを投稿しよう!