6 かれは

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 小学生の頃、両親に連れられて札幌市の街中を歩いていた。  北日本最大の市街地だけあってその頃から既に高層ビルが乱立していた。  雪どけも終わりポカポカとした穏やかな空気感。  どことなくのんびりとした日曜日。  いい天気だった。  私は青空をバックに建つマンションで言えば20階程の高さのビルを何気なく見た。  そのビルはゴンドラをかけて窓掃除をしていた。まだ上の方を拭いている。  と、ゴンドラの中からバランスを崩した人が飛び出た。頭を下に、両手を上げて、足を広げた黒い人が──  お・ち・て・い・く  スローモーションのように思えた。  ビルの窓に映る人影と対になり、同じスピードで黒い人は落ちていく──そうショッキングでもなかった、秋に落ち葉が枝から舞い落ちるのとさほど変わりがない…そんな思いしか浮かばなかった。  しかし、確実にアスファルトへ向かって進んでいた。  やがて地面にたたきつけられたらしい──集まっている野次馬、道路を行き交う車に遮られて落ちたところは見えなかった。  驚きに満ちた悲鳴とともに辺りは騒然となったが、私には枯葉が地面に落ちたくらいにしか感じなかった。  ──しかし、今になってその事故に遭遇した意味が分かってきた。  ──肉体は儚い、自殺以外は全て寿命だ。人はそれがいつ訪れるかはわからない。でも魂はなくならない。生きてようが魂になろうが因果は必ず自分に返ってくる。ならば、日常を一生懸命前向きに生きるしかない、それだけの事だ──だがそれが一番…  む・づ・か・し・い  今も忘れない嘘のような本当の・お・は・な・し ── (了)
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