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ダイニングテーブルの上に置きっぱなしだったメモを手に取り、パラパラとめくりながら、一路は思い出した様にふと笑う。
「引っ越し手伝ったの誰だと思う?」
「…もしかして…倉敷?」
「そう、倉敷。その時このメモ見られてな、執念深いって笑われたよ」
「…よかった」
「なんで?」
「一路がそうだったから、僕も諦めずに会いに行けた」
ありがとうとメモに向かって呟いた夏樹の輪郭を指で撫でると、もう泣いてないよと困った様に笑った。
顎を掬ってじっと見つめると、夏樹はゆっくりと一つ瞬きをする。
向き合って、触れ合った。
沢山話そうと言ったけど、言葉がなくても伝わる事って沢山ある、夏樹は触れる手から感じる温もりに、胸がいっそう切なくなった。一路は夏樹の手にあったメモを取るとテーブルに戻し、眼鏡も外してやる。
「キスするにも抱き締めるにも、気を使うから眼鏡はやめろ。かけるほど視力悪くなかっただろ?」
「ふふ、わかったよ」
「適当に返事するなよ」
降り注ぐ口付けが擽ったい、くすくす笑うと、真面目に聞けと怒られた。胸に、腕に、首筋に、頬に、耳に、夏樹も確かめる様に一路に触れた。
「ーーぁ、ん…」
「夏樹、夏樹」
「一路、息…できな、ぃ…んふっ…」
不意に激しくなった口付けに翻弄される、舌を食べられてしまうんじゃないかと思うほどのそれに、息継ぎもままならず喘いだ。
水音と名を呼ぶ声で耳がどうにかなりそうだと、堪らず一路の胸を叩いく。
「…一路、ずっと好き…」
「俺もだ、夏樹。俺の運命の人」
蕩けた顔で耳も頬も頸まで紅く染めた夏樹は焦がれる様に一路を見つめる。一路はやっと手に入れたと慈しむ様に夏樹を両腕に包み、火照った身体から熱を感じた。
「夏樹、俺はずっと待ってた、待ってたんだ」
「見つけてくれて、待っててくれて、ありがとう。一路…僕もずっと一路を待ってた」
互いの体を掻き抱いて、どちらもとなく愛の言葉を囁いた。
もう二度と離しはしない、愛しい人、可愛い人、どこにいたとしても、どれだけ長い時間だろうと、ずっと、ずっと、君を想って。
ーーーーー君を待つ。
『君を待つ』
end
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