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その日は雨が降っていた。
多忙な彼と数日連絡が取れない事はままある事で、それは余り気にならない。
というのも毎週土曜日の午前11時、いつもの喫茶店で待ち合わせという約束があるからだ。
時間の変更やどうしても行けない日は前日までに必ず連絡をくれる、石川一路はそういう男。
そう思っていたのだけど……
(……にしても、遅い)
高橋夏樹は読み耽っていた推理小説から意識を切り離し、辺りを見回した。
約束の時間から5分も遅刻したことの無い一路が、40分待っても来ないどころか連絡もよこさない。
後10分、後5分経ったら連絡しようと時計とにらめっこをしていたら、とうとう12時を回ってしまった。
「貴方、高橋夏樹さん?」
一時間も遅刻だなんてとやっぱり何か有ったのだと心配になり、夏樹は携帯を片手に立ち上がる。
すると、席の近くまで来ていた年若い女性と年配の女性の二人組みに声をかけられた。
年配の女性は夏樹の名を呼んだのだ。
「私、石川麻美と申します」
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