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忘年会の後は高橋夏樹の話で持ちきりだった。在宅の仕事であまり外に出ないのだろうから、ああも肌が白く綺麗なのだとか、睫毛がふさふさで羨ましいとか、マフラーに埋もれた姿が可愛くて庇護欲掻き立てられるとか。前者の容姿を褒めるそれは良かった、だが後者の言葉を耳にした時この身を襲ったのは得体の知れない不安だった。
彼が音もなく石川さんと呟いた、あの姿を思い出す。
それから暫くして、倉敷に頼み込み高橋夏樹を外へと引っ張りだしたのだ、そして会議室で出会う事 二回目。彼を知りたい、彼の事を誰よりも知っていたいと湧き上がる独占欲。初めての経験だった。
「…一目惚れだったんだな」
「なに?」
「いつから君を好きになったのか思い出していたんだ」
ソファーで二人肩を寄せ合う。俺は新聞を、彼は小説を手に好きな様に過ごす。触れ合う箇所から伝わる体温が心地よく、さらさら流れる美しい髪を指で遊ぶと、手の下からくすぐったそうに笑う声がした。新聞を置き楽しそうに揺れる体を抱きしめて、大きく息を吸う。
「思い出せた?」
「あぁ、思い出せたよ。君は…夏樹は、いつからだった?」
「え、そんな事聞くの?少女趣味過ぎない?」
「覚えてないか?」
上目遣いだった彼はほんの少し顔を顰めて、渋々という風に口を開いた。これは只の照れ隠しだ。
「……僕は、パーティーで一路が初めて僕の名前を呼んだのを見た時から」
ーーーあぁ、ほらやっぱり。
これを運命と言わずに何と言うのだろうか、歓喜で胸が打ち震える。
同じ日、同じ瞬間に、俺達は恋に落ちたのだ。
一路、覚えてるかな、忘れもしないよ。ほら忘年会でねと話しながら、体を預けてくる夏樹の頭にまた一つ唇を落とす。
彼の思い出話しを聞き終えたら、ナポリタンが食べたいと言っていたから、昼はあの喫茶店へ行こう。
それから夕飯の買い物をして…。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるよ」
「喫茶店行こう」
「ナポリタン食べにな」
「ふふ、そうそう」
それから、それから、明日も明後日も、ちょっと先の未来を想像しては、幸せを噛み締めるのだ。
end
ここまでお読み頂きありがとうございます。スター特典にて、その後の二人・プロポーズ編を追加しました。よろしければご覧くださいませ!
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