3.森の触手にご用心

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   何故だか知らないが、この森にはツタから生えてるニンジンが沢山実っている。危険はないかと枝でツンツンしてみたが、固さは普通にニンジンで、爆発する様子もない。  匂いはしないが、食べられるものだとすれば、なぜ小動物たちがこれを食べている様子がないのか。  毒だから誰も食べない……とか? 「毒に当たったら一発アウトだし、食べない方がいいのかなあ」  でも食べないとどっちみち死ぬわけだし。  どうすべきか、と悩んでいると。 「…………ん? なんか、良い匂いが……」  くん、と鼻を動かすと、左の方からなんだか美味しそうな匂いが漂ってきていた。これは明らかに料理の匂いだ。なんか、シチューみたいな!  もしかしたら、近くに人がいるかもしれない。 「でかした俺の鼻ッ!」  匂いが漂ってくるということは、相手はそんなに遠くないはず。きっと昼食の用意をしているんだろう。これは幸先良いぞ、夕方前に人に会えそうだ。  俺は空腹も忘れて、一直線にその場所へ向かった!  が、それからすぐ、木々の隙間からその「匂い」の正体を間近でみて、俺の体は硬直する事になる。  何故なら。 「ひ……ひとじゃ……ないだと……」    そう、あの美味しそうな匂いを発していたのは、人ではなかった。  それどころか…… 「生き物ですらねーよやっぱなぁ――っ!!」  泣き叫ぶ俺の目の前にあったのは、生き物ですらない存在。  そいつは壺のような形のどでかい植物だった。  ああもうハイハイ、異世界確定要素其の二。  嬉しさあまって突っ込まなくて良かったと思いつつも、俺は自分にクールになれと言い聞かせて、そっと木陰から匂いの元のその植物を眺めた。    どでかい二枚の葉っぱの上に、瓜みたいな壺が斜めに付いている。ってことは、食虫植物なんだろうか。葉っぱの下でなにかがうぞうぞと蠢いているけど、虫とかじゃないと思いたい。  それにあの植物、木々のないひらけた空間にいるけど、周囲にはなぎ倒された木が散乱しているし、あいつが移動できる可能性も考えた方がいいかも。  ああ、俺に『鑑定』スキルがあったらこんな事色々考えなくて済んだのに。  いやいや、悩んでも仕方ない。こうなったらポジティブにいかねば。  とりあえず危険な物には近付かないでおこう。  そう思い、俺は遠巻きに植物を見ながら退却しようとした、が。  
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