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何故だか知らないが、この森にはツタから生えてるニンジンが沢山実っている。危険はないかと枝でツンツンしてみたが、固さは普通にニンジンで、爆発する様子もない。
匂いはしないが、食べられるものだとすれば、なぜ小動物たちがこれを食べている様子がないのか。
毒だから誰も食べない……とか?
「毒に当たったら一発アウトだし、食べない方がいいのかなあ」
でも食べないとどっちみち死ぬわけだし。
どうすべきか、と悩んでいると。
「…………ん? なんか、良い匂いが……」
くん、と鼻を動かすと、左の方からなんだか美味しそうな匂いが漂ってきていた。これは明らかに料理の匂いだ。なんか、シチューみたいな!
もしかしたら、近くに人がいるかもしれない。
「でかした俺の鼻ッ!」
匂いが漂ってくるということは、相手はそんなに遠くないはず。きっと昼食の用意をしているんだろう。これは幸先良いぞ、夕方前に人に会えそうだ。
俺は空腹も忘れて、一直線にその場所へ向かった!
が、それからすぐ、木々の隙間からその「匂い」の正体を間近でみて、俺の体は硬直する事になる。
何故なら。
「ひ……ひとじゃ……ないだと……」
そう、あの美味しそうな匂いを発していたのは、人ではなかった。
それどころか……
「生き物ですらねーよやっぱなぁ――っ!!」
泣き叫ぶ俺の目の前にあったのは、生き物ですらない存在。
そいつは壺のような形のどでかい植物だった。
ああもうハイハイ、異世界確定要素其の二。
嬉しさあまって突っ込まなくて良かったと思いつつも、俺は自分にクールになれと言い聞かせて、そっと木陰から匂いの元のその植物を眺めた。
どでかい二枚の葉っぱの上に、瓜みたいな壺が斜めに付いている。ってことは、食虫植物なんだろうか。葉っぱの下でなにかがうぞうぞと蠢いているけど、虫とかじゃないと思いたい。
それにあの植物、木々のないひらけた空間にいるけど、周囲にはなぎ倒された木が散乱しているし、あいつが移動できる可能性も考えた方がいいかも。
ああ、俺に『鑑定』スキルがあったらこんな事色々考えなくて済んだのに。
いやいや、悩んでも仕方ない。こうなったらポジティブにいかねば。
とりあえず危険な物には近付かないでおこう。
そう思い、俺は遠巻きに植物を見ながら退却しようとした、が。
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