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何にせよ、黒曜の使者を逃してしまった事には変わりない。
こんな事になるのなら、最初から力を開放して森を突っ切ればよかった。
相手に敵だと思われても、始末できれば問題はないのだ。
この場所なら力を制御する必要もなかったのに。
今となっては後の祭りな事を思いつつ、赤髪の男は嘆息した。
……赤髪の男は、自分の腕にそれなりの自信を持っている。
この森に棲む程度のモンスターなら、簡単に蹴散らせた。
だが、今回はそうはいかなかったのだ。
なにせ相手は災厄の象徴、みだりに術を使って相手に敵と認識されれば面倒だ。だから、今回はなるべく力を使わず隠密行動をしようと思っていた。出来るだけ力を制御していたのである。
だがそうやって危険地帯を動くとなれば、やはりそれなりに時間を要す。
今回は己の力を封じ隠密行動をする事を徹底していたせいで、捕食者の森を進むのに時間を食ってしまったのだ。
今更そんな弁解をしても仕方ないが。
「しかし……やはり【黒】の名を頂くだけあって、森のモンスター程度など相手にもならなかったようだな」
ゴッサムの花畑に向かう途中、赤髪の男はアンプネペントが斃されているのを目撃している。それだけではない、花畑でもゴッサムの綿毛がそこかしこに散乱しているのを見た。
素材がそのまま残されており、尚且つ森の中を『査術』で探っても死体が見つからないので、これは間違いなく黒曜の使者の仕業と断定できる。
ゴッサムならまだ一般人でも勝機はあるが、アンプネペントはまず間違いなく無理だ。それを軽々と倒している上に、森に入ればすぐさま飛びかかってくる数百のダハを蹴散らして外に出たなんて、普通では考えられない。
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