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盗賊は相変わらず人相の悪い悪人顔だが、店員は盗賊とはまたちょっと違った不気味さで怖い。体は丸々と太っているのに顔だけがげっそりと痩せていて、失礼な言い方だが人間っぽくないのだ。
そんな顔がずいっと俺に近付いてきて、頭の先からつま先まで舐めまわすように俺を鑑定する。あっ、やだ、この人鑑定スキルとか持ってたらどうしよう。
「ほほぉ、なかなかだな。肉体労働には向いてないようだが、黒髪は珍しいし歳も若い。スキモノの金持ちなんかに良い値で売れそうだ」
ゲッ、肉体労働に向いてないって見抜かれた。
いやそれもびっくりだけど、何さっきの発言。スキモノの金持ちってなに!
ねえ! もしかして俺性奴隷にされたりしないよね!?
「じゃあ値段も吊り上げてくれるよな」
「ああ、お前の提示した値段通りに払おう」
この人達手馴れてる! 絶対常習犯だ!
俺が青ざめている間に、盗賊は店員から分厚くて何かが沢山入った袋を受け取ってしまう。そうなったら俺はもう用済みなようで、盗賊は振り向きもせずさっさと出て行ってしまった。
鬼っ、人でなし!
「では、お前には今から着替えて貰う。その懐の蛇とも今日でお別れだ」
「えっ……連れていけない……んですか?」
思わず敬語で聞くと、相手は少し眉を寄せて首を振った。
「お前の事は哀れに思うが、俺が買った以上お前はこれから奴隷として扱われる。守護獣は別売り……と思ったが、そのヘビは人気がねえから野に放す。殺しはしないから安心しろ」
あ、顔の割に意外と優しい。
一瞬殺されてしまうかと思って不安だったが、ロクに危険がないのならそれでもいい。たった一日の付き合いだったけど、楽しかったよロクショウ。
せめて店主に乱暴に扱われないように「静かにしてな」と目配せすると、ロクは悲しそうに頭を下げた。
そのまま抵抗せずに店主にひっぱりあげられて、ロクはドアの外に放り投げられる。可哀想だけど、これでいい。
奴隷になる予定の俺の側に居るより、森に帰った方がずっと幸せだ。
ドアの外へ消えた相棒に無言のサヨナラを告げる俺に、店員は意外そうに頬を掻いていた。
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