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何も否定されずさらっと流されると、なんだか怖くなってくる。
やっぱり俺、間違いでも何でもなく性的サービスとかやらされる所に売られてしまうのか。解ってた事だけど、今更ながらに悍ましく思えて来るな。
男でうっふんあっはんなサービスをする店っていうと、女性専用とかもあるわけだけど、この場合はそうじゃないんだろうなあ。
でも、一縷の望みを託して聞いてみる。
「あのー……ちなみに、俺って女専用? 男もする用?」
「お前の容姿だと9割男の相手だろうな。まあ、ご愁傷様」
「うわー……」
俺の容姿ってのがいまいちよく解らないが、やっぱり男の相手か。掘られるのか。俺はやっぱりこの世界で処女を失ってしまうのか。いや、もしかしたら掘る側かもしれないがそれも嫌だ。
冗談みたいな話だけど、どんどん目的地が近付くたびに現実味を帯びてきてなんだか足が竦んでくる。
街に入って裏路地のような場所へと連れて行かれると、もうそこには絶望の風景が広がっていた。
路上に力なく座るローブ姿で裸足の女性達。物乞いをする男、指をくわえてこっちをじっと見ているボロボロの服の子供……。
まさにスラム街。奴隷の俺が連れて行かれるからにはこういう場所なのだろうと覚悟してたけど、でも、実際に見ると辛すぎる。
彼らの視線が突き刺さってくるようで、胸が痛かった。
何かを求められても俺は彼らに何もしてあげられないし、助ける事も出来ない。売られる立場ってだけじゃなくて、俺はこの世界では日本での俺以上に無力だ。
力も金も保護もない。
奴隷にされても逃げられもしない、ただの脆弱な人間でしかないんだ。
思い知ると、余計に辛くなってくるな。
暗澹たる思いに足取りが重くなってしまったが、俺には歩調を遅らせる自由すらない。縄で無理に歩かされて、とうとう目的の場所についてしまった。
「ついたぞ」
「えーっと……これ何て読むの」
レンガ造りの欧風建築な民家に、申し訳程度に木製の看板が掲げられている。俺には読めない字だ。
そういえばこの人達日本語喋ってるよな。なんでだろ。
「はぁ? お前貴族のくせに文字よめねーのか」
「だから俺貴族じゃないんだって」
「ったく……これは【お休み処・湖の馬亭】って読むんだよ」
「なるほど。まったく読めん」
「おま……まあいいか、ほれ、入るぞ」
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