2.異世界なんてお呼びじゃない

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   「ああ……俺のお宝、大丈夫かな……母さんに見つかってないかな……。父さんはちゃんと俺の秘密の本棚にエロ漫画返してくれたかな……」  父さん、俺は知ってるぞ。父さんが俺の持ってるエロ描写がどギツイ青年漫画をこっそりと持って行ってる事を。  家族の嫌だった行動すら今となっては懐かしい。  だが、何度嘆いても俺はもう日本には帰れないのだ。  がっくりと肩を落として、俺はようやくこの世界を受け入れることにした。  この世界――――ファンタジー溢れる、異世界を。 「はあ……とにかく、どうにかして人を見つけなきゃな……こんなヘンな森の中で暮らせるわけないし、食べ物だってどれが毒かすら分かんないもんな。能力ゼロの俺じゃすぐ死にそう。それに、異世界ならモンスターがいてもおかしくないし……毒食う前に俺が食われちゃったりして」    ホント、考えるだけで恐ろしすぎて足がすくむ。  自分の言葉に自分でゾッとしてりゃ世話はない。  だけど、異世界ならばクマ以上に恐ろしい魔物と鉢合わせる機会が頻繁にあるはずだ。怖くても、その事は考えなければいけない。死んでしまったら元も子もないのだ。  レベル1どころか筋力ステータスすら最低値だろう俺には、逃げるしか選択肢はないだろう。とにかく、日が暮れる前に森を脱出しなければ。  森の中にいても、ただ死ぬだけだ。    でも、森を脱出できたとしても、そこで人に出会える保証はないんだよな。   「……この世界で人間は俺一人……とかだったらどうしよう」  一瞬絶望的な考えが頭をよぎったが、考えても仕方のない事だと必死に自分に言い聞かせ、俺はのろのろと木を下りて歩き始めたのだった。       →
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