ひとつめの嘘

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ひとつめの嘘

 正樹くんへ渡したい参考書の類をまとめつつ、ひどく落ち着いている自分に少し驚く。  俺は今、この世から消える準備をしているのに、俺と関わりのあった全ての人の中から消えるのに、俺がこの世に残したかもしれない何かが帳消しなるのに、怖いどころかワクワクしている。  前向きな自殺……とは言わないか。  死ぬワケじゃない。ルナと生きる為に俺はこの世界を捨てるんだ。 「ルナ!」  呼んでも胸はぽわんとはしない。  それでも届いているって解っているから、ルナからの返事が届かなくてもかまわない。呼び続ける。  正樹くんへの荷造りを終えて、次は亮平や和彦、真吾や沢井達に。  正樹くんのは大きめの紙袋に収まったけど、亮平達へのは段ボールでないとまとまりそうにない。  明日近所のスーパーで段ボールをもらって、夕方には亮平に渡せるようにしたい。  テキストや資料は欲しいヤツが取るだろうから、床に積み重ねるだけ。  服や家電は売ってしまおう。  その金で買えるだけコーヒーを買って持って行きたいって言ったら朱雀は怒るだろうか? 帰って来たら聞いてみようか。  そんな風に考えられる程に浮かれていた。  夜中三時を過ぎても二人は帰らない。     
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