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「話って何?」
僕はなるべく彼女と長く居たくなくてそっけなくそう尋ねた。
「えっと、広瀬君に渡したいものがあって。」
そう言って彼女は髪を掻き分けた。すごく前より短くなって、男子のような髪型になったのに、たぶんそれは癖なのだろう。
「これ」
そう言って彼女が差し出したのは表紙絵のない文庫本だった。タイトルはアルファベットで反対側から見ている僕は一瞬の内には読めなかった。そもそもタイトルなどどうでも良かった。
「いいよ」
そう言って突っぱねた。彼女はただ本を渡す為だ けに自分をこんな所に呼び出したのだろうか。踵を返して教室に帰ろうとした。もうすぐ昼休みが終わってしまう。
「違うの!」
彼女が語気を強めて僕を呼び止めた。
「これ見て」
自分が振り返ると彼女は本を開き、間に挟まっていたものを見せた。それは銀色に輝く装飾を施した小さなナイフのようなものだった。
「綺麗でしょう?」
そう言った彼女の顔は不思議な程穏やかで幸せそうだった。
彼女の言う通り、それは確かに美しかった。鋭利な切っ先は白く輝き、施された彫刻はとても繊細な模様を描いている。それはあまりにも華奢で、全く実用向きではないように思えた。
「どうしたの、それ」
彼女がそれをどうして自分に見せようと思ったのかと訝しむ。
「作ったの」
「え、橋本さんが?」
僕は思わず聞き返した。彼女にそんな趣味があったなんて知らなかった。刃物を自分で作るなんて可能なのだろうか。
「これ広瀬君にあげる」
その言葉に戸惑いを隠せないままの自分に、彼女は本ごとそれを差し出した。
「どうして?」
彼女は無言で、早く受け取れとばかりにそれを近づけた。恐る恐るナイフを手に取ると、意外な重みがありひんやりとしていた。冷たいからなのか掴んだ右手から鳥肌が立つ。
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