校舎の裏、来るまで待ってる

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 僕は走っていた。どこに向かっているのか分からないが、校門を出てアスファルトの上を走り続けていた。ナイフは内ポケットで揺れて、弾みで落ちてしまわないか気掛かりだった。走っている間中、橋本さんのことばかり思い出していた。桜の木の下で横たわる死体なんかではなくて、出会ったばかりの彼女を。  橋本さんとは中学1年の時同じクラスだった。出席番号が彼女の次で、席はすぐ後ろだった。話すようになったのは、彼女が読んでいる小説が僕の好きな作家の作品だったから。友人は何人か出来たけど、小説の好きな奴はあんまり居なかったから僕は彼女と話が合って本当に嬉しかったんだ。好きな作品の解釈についてお互いムキになる事もあったけど、それを含めて僕は彼女が好きだった。だけど彼女を裏切ったのは自分だ。  彼女は普通の女子だった。冗談も言うし、よく笑うし、とっつきにくいタイプでもない。それなのに、ある何人かの女子からは敵視されていた。これはあくまでも僕の憶測だけど、彼女は可愛かったからやっかみもあったんだろうと思う。いつの間にか女子のグループからは外れていた。それでもしばらくは目立った事件も無く、僕たちの友情は1年の間続いた。
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