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覗いてごらん、と言って須賀くんが私に手渡したのは、十五センチほどの長さの筒で、両端が金属の蓋で留めてあり、その蓋の中央にはガラスの覗き穴があった。片目を閉じて中を覗くと、カットされたダイヤモンドを転がしたような、きらびやかな模様がうごめいていた。筒をまわすと模様も回転する。万華鏡である。ただし、内部にビーズや色ガラスが封入されているのではない。須賀くんが、筒を覗きこむ私の前で動くと、筒の中の模様も動いた。須賀くんの、少し日に焼けた健康的な肌の色がちらついた。覗き口の反対側にレンズがついていて、望遠鏡のようにして覗くと、レンズの内側に仕込まれた反射鏡が、景色を模様にして映し出すという代物だった。
「きれいだね」
と私が何の気なしに言うと、須賀くんは、
「これで覗くと、どんなにつまらない風景でも、それなりに価値があるように見えるよ」
と皮肉っぽい返答をする。口調が涼しげなので不快には思わない。
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