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どんな言葉を口にしたとしても、須賀くんが言うならば、五月のそよ風のように心地よかった。筒の外側は規則的に赤い罫線が引かれた古めかしい卵色の紙で装飾され、線の間を埋めるように真四角やひし形の黒いしるしが刻まれている。古い時代の楽譜なのだ、と須賀くんは言った。イタリアから帰国した彼と会った日に、お土産だと言って渡されたのが、この万華鏡だった。
「フィレンツェの、雑貨屋さんで見つけたんだ。最初仕組みが分からなくて、戸惑ったんだけど、筒を覗いたままあれこれ見まわしているうちにね、お店のおばさんの顔がね、六つに分かれて模様になってね、それで分かった。すぐに“これください”って言ったよ」
「イタリア語で?」
「イタリア語で」
須賀くんがどんな風にお店の人に言ったか、再現してくれたけれど、私はイタリア語がわからない。ただ、きれいな巻き舌をおり混ぜながら、ヴォッレーイ、と発音した須賀くんの口から覗く並びの良い白い歯を見ていた。
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