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断じて四乃葉と見つめあった覚えはないのだが、それにしても薮内は妙に四乃葉関連で絡んでくる。
「だって、付き合ってないし。従姉妹だし家も隣だから、登校はどうしても一緒になるよね」
適当にいなして会話を終わらせようとしたら、薮内はへぇ、と童顔に似合わない低い声を出す。
「帰りもいつも一緒じゃねぇか。昨日は岩清水とも一緒に帰ったみたいだし、おモテになって結構ですネー」
後半のセリフは僕から目を離して発せられた。
僕は思わず薮内の顔をまじまじと見た。
彼は自分が同学年の女子からどんな目で見られているのか自覚がないのだろうか。休み時間の度に教室後方のドア付近で固まっている他のクラスの女子たちの目当てが自分じゃないとでも?
僕はとっさにごまかしの言葉を口にした。
「黒沢さんも一緒だったよ。四乃葉と友達になりたいみたいでさ、俺に仲介を頼んだんだよ」
と、言うことにしておこう。
「ふーん」
薮内はまったく信じていない調子で頷くと、不意に肩を抱いて、僕の右耳に口を近づけた。
「岩清水は男嫌いだから、あんま調子に乗んじゃねぇぞ」
「へ」
その声のトーンのあまりの低さに、僕はびっくりした。
てっきり薮内は四乃葉のことが気になっているのかと思っていたのだが、本命は岩清水湖珠なのだろうか。
薮内は僕の耳から顔を話すと、僕の顔を見て、ぷっと噴き出した。
「間の抜けた顔してんなよ。まぁ、そういうことだから、あんまり気安い調子になるなよ?」
その笑顔は柔らかく、多くの女子のハートを打ち抜くのもなるほどと思わせる魅力にあふれていて、先ほどの怖さが嘘のようだ。
僕は頭の中に大量の?マークを発生させながら、五時間目の授業を受けるべく、チャイムとともに席に戻った。
15
数日は平穏無事に過ぎた。
相変わらず帰路は四人一緒に下校して、黒沢の話題提供に頼り、四乃葉と僕とが言葉少なにそれに応えて、岩清水湖珠は黙ったままだ。
けれど、黒沢と四乃葉はさすがに多少親しくなったようで、午前中の休み時間にも会話している様子が見られるようになった。
黒沢と四乃葉が会話すれば、そこに自然と岩清水湖珠も加わって、女子三人での会話となる。見たところ会話が弾んでいるとはいいがたいが、それでも、会話が成立しているだけいい傾向である。
僕は彼女らの様子を読んでいる文庫本の表紙越しに確認し、胸をなでおろした。
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