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四乃葉のクラス内での孤立の問題はどうやら解決に向かいそうだ。
しかし。
「そんなに凝視しなくても、お前の四乃葉ちゃんは消えてなくならないぜ?」
僕のクラス内での平穏に新たな問題が生じていた。
薮内岳である。
今も僕の背後から意地の悪いセリフを投げつけてきた彼は、なぜか僕にやたら絡んでくるようになった。
といっても放課後は部活があるので休み時間や昼休みに限られるのだが、それでも、休憩ごとに彼が僕の席を訪ねてくるようになってしまったのは困った事態だ。
薮内の本来の席は教室後方のドアのすぐ近く。対して、僕の席は教室窓側の一番後ろ。教室後方なのは一緒だが、ドアへの距離が全く違う。そうなると――他クラスから薮内を見に来た来た女子が彼の姿を見にくくなるわけで。
「鷹森、最近お前、他のクラスの女子に評判悪いぞ」
体育の外周を走り終わってのわずかな休憩時間、中学からのクラスメイトが親切に教えてくれた。
「薮内くんを独り占めしてずるい、とか、美少女を連れ歩いて調子に乗ってる、とか」
「濡れ衣だ!」
僕は叫んだ。
少なくとも薮内を独り占めした覚えはないし、美少女も連れ歩いているわけではなく、むしろ僕が四乃葉に連れ歩かれている(認めたくはないが)。
「鷹森の周囲、顔面偏差値がすごいことになってるよな。たまに近寄りがたいよ」
あくまで周囲であるところが悔しいし、黒沢の存在を無視されているようで彼女に悪いのだが、それよりも近寄りがたいと言われるのは問題である。
「いや大いに近寄って! 薮内といるときとか特に!」
「俺がどうかしたか?」
不意に会話に割り込まれて、僕は腹の底から細い声を出してしまった。
「はは、『ひょーい』ってお前、なにソレ」
薮内は爽やかに笑う。半袖半ズボンの体育着を着ていると、ほぼ同じ身長ながら、僕と薮内の体格の差がよくわかる。
薮内の腕は当然ながら僕よりたくましいし、すらりと伸びた脚は日に焼けて鍛えられている。
僕のコンプレックスを手痛く刺激してくる体格だが、しかし、僕にだって薮内に負けない部分があるはずだ。多分きっとそれなりに恐らく!
僕が無根拠な思い込みを懸命に自分に思い込ませようと努力していると、薮内が僕の肩をつつき、ひょい、とグラウンドの隅を顎で指した。
「何?」
「ちょっと話あるから、つきあって」
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