第1章

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 すぐさま言葉を重ねて尋ねてきた薮内の疑問に、僕は一瞬思考が止まった。 「鷹森には、どう接してるんだ。一緒に毎日帰っているだろう?」  薮内の表情は真剣だった。焦っているような、心から心配しているような、熱心な関心が全身からあふれていた。 「僕とは……特にしゃべらないし、関心を持たれているとも思わないけど」 「僕?」 「あ、俺には!」  薮内は僕の一人称の変化に特に関心はないらしく、僕の回答に「そうか」とがっかりしたような安心したような複雑な表情を見せた。 「薮内は」  僕は思わず尋ねた。 「岩清水さんのことが好きなの?」  薮内の顔がぱっと赤くなった。それはもう、返答が不要なほどに。  僕は脳内で薮内と岩清水湖珠が並んでいる様子を思い浮かべた。  美少女にイケメン。お似合いである。  告白すればいいのに、と条件反射的に考えて、すぐに岩清水湖珠が男嫌いであることを思い出した。しかもそれを僕に言ったのは薮内だ。  思いついて、僕は薮内の様子をうかがった。 「……薮内は、岩清水さんが男嫌いなことと何か関係しているの?」  薮内は、一瞬傷ついた表情をした。僕は意図せず彼の古傷をえぐってしまったのかとヒヤリとしたが、彼は首を振った。 「関係は、してない。……でも、事情は知ってる。無理もないんだよ」 16  女子更衣室の前というのは、男子高生にとって緊張する場である。  待ち伏せしているのがうっかり女子にバレたら変態の烙印を押されるようなものだ。  しかし、この情報は、早く四乃葉に知らせたかった。たとえ変態と呼ばれる危険を冒しても。 「四乃葉!」  体操服からセーラー服に着替え終わった彼女が更衣室のドアから出てきたのを見計らって、僕は声をかけた。四乃葉は僕に気づくと呆れた様子で近づいてくる。 「妙なところで待ち伏せしてるんじゃないわよ。どうして掃除用具入れと壁の間に挟まってるわけ?」 「ここが一番周囲からの視線を遮るんだ」 「視線を遮っても、あなたが女子更衣室の前で女子を待ち伏せしてた事実は変わらないわよ」  心をえぐる指摘である。 「そんなことより、四乃葉に知らせたいことがあって」  僕はいっそう掃除用具入れと壁の隙間に体を縮こませながら言った。 「知らせたいこと?」  四乃葉が首をかしげる。鳶色の瞳が興味深そうに輝いた。 「そう。岩清水さんがどうして男嫌いか、っていう話なんだけど」
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