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部屋は相変わらずの汚部屋である。壁に積み重なった雑誌類、新聞類、書籍や文庫。部屋の隅にまとめられた空き缶や空きペットボトル。ベッドの上に積まれた衣類。クローゼットの前のコタツ布団入り布団カバーに、ごみ箱代わりにごみが詰め込まれ丸くなったレジ袋。
「……どうした?」
先生は向かいに座って様子をうかがってくる。
その気遣いに満ちた上目遣いを見ていると、僕は抑え込んでいたものがあふれるのを感じた。
「……岩清水さんの昔のこと薮内に教えてもらったら、それがほんっとムカついて。でも誰にも言えなくて、先生に愚痴の吐き出し先になってもらおうと思って」
「そういうことか」
先生は僕の告白に、はぁ、と腹の底から大きく息を吐いた。
「青ざめた顔で夜遅くに訪ねてくるから何があったのかと。肝を冷やさせないでくれ」
先生が正座から一転、胡坐へ姿勢を変えると、自分の分のペットボトルのお茶を開ける。
「そういうのはあの気の強そうな従姉妹と話せばいいだろ」
「四乃葉に話そうとしたら断られちゃったんですよ」
僕はそう言って、今日の昼間、女子更衣室の前での出来事を話した。
改めて、自分の軽率な行動がずっしり心にのしかかる。
先生は興味深そうにその話を聞いて、かすかに下手な口笛を吹いた。
「そりゃまた、男前な考え方だな。鷹森の従姉妹にしておくのがもったいない」
「どういう意味ですか」
僕は侮辱の意味を感じ取り抗議したが、当然ながら先生は詳しく説明してくれなかった。
「とにかく、四乃葉はそういう考え方で、僕もその考え方は一理あるな、と思うんです。でも、そうすると、僕は薮内から聞いたことを同じクラスの友人に話すわけにはいかなくなるし、兄さんに話そうにも今日は仕事で遅いし、先生の他に話す相手がいない」
先生は腕組みをし、感心したように呟いた。
「鷹森、思ったより交友関係狭いな」
「先生に言われたくないです」
僕と先生は同時にお茶を飲んだ。
「先生なら岩清水さんと会うこともないだろうし、面白半分に噂話を流す人柄でもないし、適役だと思ったんですよね」
「そ、そうか」
先生は姿勢を正してコホン、と咳き込んだ。頬が赤い。自分が僕に信頼されていると実感して、うれしいようだ。
「頼みます、先生。僕の『王様の耳はロバの耳』の穴になってください!」
「それだと最終的に秘密が世間にバレるけどいいのか?」
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