花の齢のその頃に

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 金時の屋敷に着くと、まるで貞光の訪れを予知していたかのように、金時の母と老婆が迎えてくれた。すると金時は昨夜、人知れず外に出て行ったきり、まだ戻っていないというのである。貞光はますます心配になった。  金時の母も老婆も心配と不安を隠せないではいたが、恩人でもある貞光を歓待してくれ、気がつく頃にはもう夜になっていた。  「このようにわざわざおいでいただきまして、恐れ多いことにございます。あの子は大変な剛力ではありますが、田舎の山から出てきた世間知らずの、まだ十五の子供でありますから、わたくしもこの都で心配事は多いのです。花の齢は、誰しも悩みを抱え、影響を受けやすく不安定で、本人ですら何を考えているかも分からぬものでございます。そのくせ何者かになりたいといらいらと気だけが焦って何かに当たってしまう、けれどもそれは誰しもが経験のあることなのでしょう。貞光様、わたくしには都であなた様以上に頼れるお方はありません。どうかあの子を見守ってやってくださいませ」  なるほど、あの年頃は誰でもそのようになるものだ。貞光は自分の若い頃を思い出して頷いた。それにしても、そう懇願する金時の母は天女のように美しい。やはり親子である。金時の美貌は間違いなくこの母の血にあろう。貞光は急に気持ちが落ち着かなくなり、頷いた後簡単な礼を言うと、屋敷を出ることにした。  どこか甘い香りのする春の夜、貞光は馬でゆっくりと帰路へついた。不意に月を見ようと顔を向けたが、やはり空には黒い群雲があってなにも見えはしない。少しいらつく気持ちになると、そこで不思議と酔いが覚めた。このまま屋敷に帰るのもなんなので、どこかに寄っていこうと思ったのである。  そう思った貞光は、気がつけば馬を羅生門へと向けていた。
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