第一章:「時間の神」

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四年前。 この農村は、"帝国"の侵略を受けた。 アイテリオン帝国。アサガたちが住むこの大陸で最大の勢力をもつ大国だ。 もともと版図拡大に意欲的な国家ではあったが、彼がまだ祖父と暮らしていた頃から 突然、本格的な侵略をはじめたのだ。 特に変哲もないこの農村が戦場になったのは、不運だったと言えるだろう。 本来なら帝国が攻めてきた時、戦闘にすらならずただ降伏しただけのはずだった。 だがその時はおりわるく、当時この村が属していた国の軍隊が逗留していたのだ。 深い由縁あってのことではなくただ食料の徴収のためであり、また帝国軍も その動きを察知していたわけではないはずだ。 情報収集不足という、ある意味では双方の怠慢によりこの村は無意味に 戦火にみまわれた。多くの村人が死に、アサガの祖父も亡くなった。 以来、この村は帝国の一部として税を納めている。 孤児となったアサガだが、ここまで生きてこれたのは村人たちが彼に仕事を 与えてくれたからだ。もっとも、裏を返せば天涯孤独となった彼を ただ養う余裕のある者もいなかった、ということだが…… (ボクは、しあわせな方だよね) 戦災孤児などどこでも悲惨なものだ。それでも曲りなりに生きる道を村人たちは 与えてくれたし――彼は一人では、なかった。
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