3人が本棚に入れています
本棚に追加
四年前。
この農村は、"帝国"の侵略を受けた。
アイテリオン帝国。アサガたちが住むこの大陸で最大の勢力をもつ大国だ。
もともと版図拡大に意欲的な国家ではあったが、彼がまだ祖父と暮らしていた頃から
突然、本格的な侵略をはじめたのだ。
特に変哲もないこの農村が戦場になったのは、不運だったと言えるだろう。
本来なら帝国が攻めてきた時、戦闘にすらならずただ降伏しただけのはずだった。
だがその時はおりわるく、当時この村が属していた国の軍隊が逗留していたのだ。
深い由縁あってのことではなくただ食料の徴収のためであり、また帝国軍も
その動きを察知していたわけではないはずだ。
情報収集不足という、ある意味では双方の怠慢によりこの村は無意味に
戦火にみまわれた。多くの村人が死に、アサガの祖父も亡くなった。
以来、この村は帝国の一部として税を納めている。
孤児となったアサガだが、ここまで生きてこれたのは村人たちが彼に仕事を
与えてくれたからだ。もっとも、裏を返せば天涯孤独となった彼を
ただ養う余裕のある者もいなかった、ということだが……
(ボクは、しあわせな方だよね)
戦災孤児などどこでも悲惨なものだ。それでも曲りなりに生きる道を村人たちは
与えてくれたし――彼は一人では、なかった。
最初のコメントを投稿しよう!