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入学式からひと月が経った頃。
この中途半端なタイミングで転入生がクラスにやって来た。
「……夢見ヶ崎ナノです」
名前を言うだけの自己紹介をして、転入生の彼女は、よろしくお願いします、と一礼した。
転入生が来る、というあまり遭遇することの無いシチュエーションにクラスメイト全員が沸き立つ中で、俺はただ一人彼女に対して引いていた。
なんだその頭に乗せてるものは。
そう、思わざるを(つっこまざるを)得ないものを、彼女は頭に乗せていた。
それは女子高校生が頭に乗せるようなものじゃ無かったからだ。
印象で言えば縄文か弥生、その辺りの時代のものと思われる装飾具。教科書や資料本の写真にあるようなそれはどう見てもファッションとは言いがたい。百歩譲ってファッションだったとしてもそれはそれでセンスというか精神の方を疑うことになるだろう。
ここは一つ、自分の目を疑ってみよう。
俺は後ろの席の友人(中学から一緒のヤツ)に訊いてみた。
「あの子の頭にあるアレ、何かな」
「アレ?」
「ほら、あの子の頭に乗ってる飾りみたいな……」
「うーん、何も無いみたいだけど」
友人が首をひねる。何も見えていないようだ。
次にクラスメイトを見回してみる。一人として頭に注目しているやつはいない。
って事は俺にしか見えてないのか。アレ。
もう一度だけ転入生を見る。やはり、頭の上に飾りが乗っている。
……うん。よし、この子には関わらないでおこう。
俺は心の中でそう決めて、転入生・夢見ヶ崎ナノという存在に対して、そっとしておくことにした。
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