一、黒髪のグレイ 1,〈傀儡の少年王〉

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一、黒髪のグレイ 1,〈傀儡の少年王〉

 十八歳のグラジルアス少年にとって王冠は枷、玉座は檻、彼のことを親しみを込めてグレイと呼ぶ人が誰もいなくなった王宮は、ひとりぼっちの牢獄だ。実際、即位してからの五年間、王城ケルツェルから一度も出られたためしがない。城の門がどんな形をしているのかも、忘れかけている。かつて母が手にしていたとき、錫杖は平和を象徴する刃なき正義の剣であった。  だが、今はどうだろう。正義の輝きなど、今のヴァニアス王国のどこにもないに違いない。ダイヤモンドの形をした島にも、それを包む海にさえも。  五年前に即位したその日、王子グレイは王冠の下に潰され、その代わりに、偽りの微笑みを浮かべた〈傀儡の少年王〉(マリオネツト)グラジルアス・ラズ・スノーブラッド・ヴァニアスが、国家と責務がごとく重たい朱のマントを背負って生きていた。  どれぐらい時間が経っただろうか。グレイは凝り固まった首の上で、目だけを動かした。  影が背丈を伸ばしはじめているから、陽が傾いているのだろう。  背骨や太腿の裏に感じるちりちりとしたむずがゆさを静かに奥歯を噛みしめてやり過ごす。
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