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「よ、サトウ。明日仕事替わってくんね?」
某社企画部で書類を作成していた私の耳に、高圧的で理不尽な台詞が撃ち込まれた。
「え?」
私は思わず上擦った声をあげる。
そんな私には目もくれず、同僚の男は、部長の方に向かって言葉を放つ。
「部長、俺明日休むんでよろしくお願いします。サトウが…いや、桐持さんが替わりにでてきてくれるそうなんで」
「そうか。桐持くん、明日は頼むよ」
部長がパソコンに視線を向けたままそう言って再び押し黙る。
「は…はい…」
私はとりあえずそう返事をして残りの仕事をこなしにかかる。
私の名前は桐持総子、29歳、独身。
あだ名は、物心ついたときからことごとく、"サトウの切り餅"、あるいは、"サトウ"。
サトウなんて、苗字変わっちゃってるし。
でもこれは、桐持家に伝わる呪いみたいなものだ。
あるいは洗礼か。
明日は休みをとったからとがむしゃらに働いたのに、私の苦労は一体何だったのか。
その日私は、退勤の電車の中で眠りこけ、失態をおかしてしまった。
隣の男性にもたれかかって寝入ってしまったのだ。
恥ずかしいやら情けないやら、その男性が電車を降りるまで私は、顔を真っ赤にしてカッチコチに固まって、時が過ぎるのをただ待つしかなかった。
どうやら肩を貸してくれた男性は高校生のようだった。
そして私は、彼に一目惚れしてしまったのだった。
その男子高生のことを忘れられなかった私はその後、市議会議員である父親のコネで男子高生の通う高校に編入することになった。
(ビバ、コネ!)
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