856人が本棚に入れています
本棚に追加
/611ページ
素っ裸で床に転がされていることは、目を開けなくても分かった。
「……」
意識はあるのに体が動かない。指先ひとつ動かすのも億劫だ。
どれくらい気を失っていたのだろう……。
絵麻は胎児のような姿勢のまま、微かに息を吐いた。
鎮静剤を打たれ、半ば朦朧としながら車に乗せられたことは憶えている。
まずいことになったという自覚はあった。
「……」
きつい……。
硬い手錠が手首に食い込んでいる。
体は柔らかく重く、しばらく絵麻の言うことを聞きそうになかった。
――そう言えばここはどこだろう。
どこか遠くで誰かが泣いている……。
絵麻ははっと目を開ける。
至近距離で絵麻を凝視している男と目が合う。
虚ろな目。子供のような表情。
最初のコメントを投稿しよう!