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雪解けの瀬の中で、手足のない人の体を最初に見つけたのは、山歩きの熟年夫婦だった。
「胴体……人間の、胴体……」
売店まで駆け戻り、それしか言葉の出ない妻が介抱されている間、昨年まで大手電機メーカー勤務だった夫が通報する。
渓流釣りが解禁となった3月の最初の日曜日。
更にその下流では、ウェーダーを着た釣り人が、網に入った人間の手を掲げて「ウワァァァァア!」と騒ぎ出す。
網を手放せないままワァァァァアと後ずさっていると、網の中で皮がずるんと剥け、指先がぽとりと隙間から落ちる。
「ウワァァァア!」
「ウワァァァア!」
辺りが騒然とし始める。
どこからともなく人が集まり出す。
「……中佐、もう全域に立ち入り規制かけるそうです」
ややあって、山歩きにそぐわないスーツ姿の男が二人現れ、若い方が口早に告げた。
中佐と呼ばれた方は、うむ、と進もうとしてぬかるみの前で立ち止まる。
「……」
「あ、いいですよ。中佐は座っててください」
若い方は軽く流してブルーシートのそばにいる年配の男に近寄る。
「どうですか……?」
「今の段階で言えることはない」
旧知の気安い口調だった。
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