名前が呼べない君

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 それからは有頂天だった。思えば今までの行動は全て俺を意識してるからじゃないのか? そう思えば思うほど可愛い。その感情ばかりが募る。そういえば彼女は頑なに俺の名を呼ばない。呼ばないと気づかないような時でも「あの!」と言ってくる。……そうか、彼女は俺の名前を呼ぶのが恥ずかしいのか。  夕ちゃんと同じ中学だった同級生にたまたま聞いた話だが、夕ちゃんはどうやら恥ずかしがり屋のようだ。その情報も相まって、俺のテンションは上がるばかりだ。 「よし、夕ちゃんに名前を呼んでもらおう……!」  俺の奮闘は始まった。今まで以上に積極的に声をかけて、名前を呼ばなきゃいけないような状況にさせたりした。それでも名前は呼ばれない。なかなかに強敵だ。  そんな時だった。放課後たまたま中庭に面する廊下を歩いていたら、中庭で夕ちゃんが草をかき分けていた。制服が所々汚れていて俺はびっくりして中庭におりた。……そんな俺も外履きなんて履いていなかったが。 「ちょ、高遠さん何してんの!?」 「あ……」  地面に手をついていた夕ちゃんの腕を引っ張って立ち上がらせる。夕ちゃんの表情は暗く、泣き出してしまいそうだった。 「どうしたの?」 俺がなるべく声を優しく出して伺えば、夕ちゃんはもっと泣き出しそうになって。俺はあたふたしながら、もし泣き出したら、とハンカチを探そうとしたが持っていなかった。ちくしょう、こんな時ばっかり自分のズボラさが嫌になる。 「……お母さんの」 「ん?」     
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