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+第1話+「君のファンになった」
佐藤涼は、栗名のことが好きだ。
栗名の名前は紅葉という。男にもみじなんてつけるか親の馬鹿野郎、なんていつも口にしているけれど、男だろうが女だろうが、栗名は「もみじ」の名を授かる子どもだったのだと思う。なぜなら、彼は本当に紅葉のような、鮮やかで華やかな髪色をしていたからだ。
栗名の髪は赤い。人工的には出せない天然の赤だ。葉が色づき始めてから完璧な紅になるまでの薄い赤。それは一見赤毛にも見えるが、太くてコシのある日本人の髪質に不思議と合い、独特なスタイル美を醸し出している。
涼は自分の席で本を読みながら、ちらりと栗名の人気ぶりを拝見する。今日もやつは華を振りまき、みんなを惑わせている。男も女もやつの虜で、みんながやつに恋い焦がれているのが分かる。ほかならぬ涼も栗名と同じクラスになれたおかげで、一年の時みたいにまずい空気を吸うことはなくなった。その点においては非常に感謝している。
問題なのは、涼の栗名に対する気持ちが、ほかの同級生たちの憧れや思慕ではなく、もっと大きな愛情とか羨望とか欲望に似た感情だということ。
涼は栗名に欲情しているのだ。
描きたい。
こいつを描きたい。
こいつの美しさ素晴らしさを芸術に昇華するとしたらどの表現がふさわしいだろう。絵か、音楽か、文章か。
一番ほかのやつらにもすぐに理解できそうなのは人物画だろうが、この学校の美術部の顧問は涼と気が合わないタイプの人間だ。それにあそこで描いているやつらの絵が優れているかといえば、決してそうではないと思ってしまうのが事実だし、自分の描く絵が、美術部レベルには収まらないほど激しくて個性的だということを、自意識として涼は持っている。
しかし、涼はいまだに、どの芸術分野も心が削れるまで取り組んだことはない。
ここまで考えて、涼は自分のみすぼらしさに行き当たってしまう。一度も染めたことのない髪を校則通りに整えているだけの、平凡な見た目の自分。ただ中身が激しく燃え盛っているだけの未熟な己。
涼はとにかく描きたかった。栗名という男を。
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