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このまま話していても埒があかない。涼は鞄からいつも携帯しているA4サイズのスケッチブックを取り出した。三人は不穏そうな目つきで見張る。
ページを開き、鉛筆を持って、涼は描いた。
目の前の三人を。
いったん手が動いたらあとはもう楽だった。本能の従うままに、脳の中の神様が「描け」と命じるままに描く。ラフスケッチだから仕上がりは簡単だ。涼はほとんど手元を見ずに目の前の彼らを目に焼きつけ、それが目を通って脳に伝って頭からつま先までを駆けめぐって外に出されるのを待つだけだった。
手は武器だ。絵は手段だ。脳は司令塔だ。人は芸術だ。この社会で生きていくために何も欠かせない。
手の中の鉛筆は徐々にスピードを緩め、最後の細かな修正を終えるとぴたりと動かなくなった。
三人は呆然としていた。
涼はページ三枚分をはがして三人に配った。
「うまい……」1号。
「くっそ、うまい」2号。
「そもそもなぜこんな線が描けるのか分からない」3号。
涼はスケッチブックをしまい、彼らの目を見据えた。
「僕は真剣に栗名紅葉を描きたいんだ」
三人は押し黙った。
どれくらい睨まれていただろう。
1号が沈黙を破った。
「栗名の自宅はここから三駅目にある」
ほかの二人が1号を見上げた。目がこれ以上ないほど飛び出ている。
「……京王線沿線?」
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