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恋に落ちた時の音をご存知だろうか。
「ずきゅん」、だ。
……ベタだと思うだろうか。
しかしあの日、わたしは実際にそれを聞いた。
わたしのハートは見事に撃ち抜かれたのだ。
全身が粟立ち、腰から力が抜けていくような。
あんな感覚を味わうことはこの先ないだろう。
わたしはあの日、やぶれかぶれになっていた。
人生のすべてが上手くいかず自暴自棄に……という、よくあるつまらない話だ。
両親を早くに亡くし、頼れる知己もおらず、たった一人孤独に過ごしてきた。
草をはむような生活。恋人など望むべくもない。
もしあの時、わたしに伴侶のような存在がいたら、なにか変わっていただろうか。
しかしそうはならなかった。
住む場所も生きる気力も失くしたわたしは、
最期に世界に復讐してこの命を終わらせようと考えた。
それがまあ、オモチャの銃を持って銀行へ行くという短絡的な結論に至ったのは、
ひとえにわたしの想像力の欠如によるものなので、ご容赦いただければと思う。
今でも覚えている。
銃を突きつけられた女性行員の怯えた表情。
怒号のような悲鳴。逃げ惑う客。
心地よかった。
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